【実体験】幽霊に馬鹿にされた話3
絶妙なツッコミ
テープに紛れ込んでいた『ばぁぁああああか』という声。
何度か巻き戻して聴いてみたが、間違いなくKのものではない声が確実に紛れ込んでいた。もちろん風の音でも何かの物音でもない。テープの故障でもない。
改めて状況としては、Kが1人で私の家で、寝転がりながら片手でテープレコーダーを持ち、つまり仰向けの姿勢で上に向かって声を出している格好になる。
耳元で、囁く様な音量。寒い時にハァ〜〜と息を吐く感じで発せられた声。よく聞けば、恐らく手を伸ばした先のテープレコーダーと横たわるKの顔の間、ニュッと顔を挟んで言ってるであろう距離感も感じ取れる。
そして、初めて聴いた時に既に戦慄したが、何よりその内容に再度驚き、感動すら覚えた。
『馬鹿』。
バーカ……って、この世に数ある所謂心霊系音声で、こんなツッコミ心霊音声を聞いた事がない。しかも状況から見て、筋が通っている。
20歳そこらの男2人で、お互いにテープレコーダーに下らない音声を吹き込み、内容もお粗末な身内ネタ。どこからどう見ても『馬鹿』以外にない。確かにおバカ。何者かの声は、そんな寂しい2人を見かねて思わず突っ込まざるを得なかったのだろうか。
ただ、その場で私達2人は余りのハッキリした不可思議体験に黙ってしまった。
「これ……え?マジじゃん、え?」
私も最初こそ余裕を見せようと少しはにかんでいたが、Kの深刻そうな顔を見てこちらも顔を強張らせてどうする?と話し掛けた。
「あれさ、すまん、ちょっとさ、今から電話するわ」
Kは決意したように近くにあった携帯電話を手繰り寄せ、電話を掛ける。相手は母親だという。
母親……?ちなみにKの母親も私はよく知っている。私は「お、おう、わかった」と言って、理由は聞かず見守った。
時間は午前10時頃だったと思う。すぐに電話が繋がったようで、Kはテープに関する出来事を洗いざらい話し始めた。スピーカーにしていたので、私にも電話の内容は聞こえていた。
するとKの母親は事態をすぐ理解したらしく、今から所謂『霊能者』たる人物に電話を繋いでくれると言う。私には唐突だったが、Kは「わかった、頼む」とすんなり受け止めた。
一体どういう事だろう。Kとは付き合いが長い分、何となく若干霊感があるとか無いとかは聞いた事あるような気もするが、知り合いに霊能者がいるなんて聞いたことがない。
電話での霊視
Kの母親は、早速その『霊能者』に電話を繋いだ様だった。片方の耳でKと、もう片方の耳で霊能者と会話をしている状況だ。「うん、うん、はい、はい」と、Kの母親の相槌がスピーカー越しに耳に入ってくる。Kも私もその相槌に耳を集中する。
すると、
「今からその部屋を霊視してくれるって」
とKの母親が言った。
……霊視って?電話越しに静岡から埼玉のこの部屋を霊視?
私にはわけがわからなかったが、Kはそれを素直に受け入れ、どうやら電話越しに『霊視』が始まってしまった。ハッキリとは覚えていないが、多分部屋の住所なり、間取りなり、何かしらの部屋の状況をK経由で彼の母親に伝え、母親は霊能者にそれを伝言していたと思う。
1度電話を切ったかそのまま繋いでいたか、どれくらい時間が掛かったのか、そこも正確には思い出せない。しかし、何れにせよその後霊視が終わった後にKの母親から霊能者が告げたと言う音葉はしっかり覚えている。
「なんかね、どうやらその部屋に5体いるらしいよ」
私もKも、一瞬言葉が出なかった。