kumorinekoの雑記

東京在住、とりあえず始めます。

火事と花火

こんにちは。

 

先日妻と『いたばし花火大会』に行った。

まともな花火大会観覧なんてほぼ初めてに等しかった。『大ナイアガラの滝』という有名な花火が見たい!という妻の希望でチョイスしたわけだが……。

 

それともう1つの目的は、いやむしろこちらがメインだったわけだが、花火大会で催される屋台を堪能する事だ。一応諸々事前に下調べはしていた。頭の中のイメージはバッチリ。神社などで賑わっている何店舗も屋台が連なる一角があるに違いないと目論んでいた。色々食べながら、歩きながらでも良い、チラッと花火が見えるのであれば、なんて。

 

会場近くのJR埼京線浮間舟渡駅』は電車から降りる前からその混雑ぶりを伝えていた。

1つ手前の『北赤羽駅』とではホームにいる人の数が田舎の何でもない横断歩道と週末の渋谷のスクランブル交差点の人口比率くらい差があった。

降車ドア前に何人も連なる駅員。ロープが張られ万全の準備体制。何年もかけて築き上げてきた熟年の技だろう。とんでもない数の人間が一斉に群がる駅構内は、混沌の中ではあるが確かに統制されていた。

 

言われるがままに改札を通り、自然に会場方面に足を進めていく。

出てすぐのローソン、その先のセブンイレブンには長蛇の列。飲み物を買うためにセブンの列に並んだが、商品購入まで30分以上を要した。トイレとレジの案内をする為に立っていた店員の名札を見ると別店舗の店長だった。この日のために精鋭を招集しているという事か。ぜひNHKの『ドキュメント72時間』に密着して欲しい。

 

購入したビールを飲みながら人の流れに沿って河川敷へと歩き進める。

この時花火開始の1時間ほど前だった。

正直言って「行けば流石にわかるだろう」精神で大して詳しくは調べなかったので、お目当ての『屋台』が階段を登って遠くが見渡せる場所に行っても一向に見えない事に一抹の不安が過ぎる。

必死で案内をする警備員に「あの……屋台はどの辺りに」と直接聞いてみるも耳に入らなかった様で、もう1度話しかけようとしたところに女性2人組が同じ質問を同じ警備員にしたのが聞こえ「この階段を降りてあっち方面です」と答えていた。

0距離だったが、どうやら男の声は聞こえないらしい。

 

言う通りの方向に進むにつれ、斜面になっている河川敷の川表には続々と人が集まっている。腰の高さの雑草を物ともせず、雑草故に人気がないのであろう箇所にまばらにシートを広げ花火を待っている。

しばらく歩くとどうやらメインステージからはまだ大分離れてはいるが、明らかに今までとは違う人集りの空間まで辿り着いた。お祭り的雰囲気ではあるが……そう、屋台が無い。ネットでは10件くらいはあるよ、と下調べしたつもりだったが、蓋を開けてみれば更に奥のメインステージ付近を含めて疎らに点在していただけだった。

少ない屋台飯を求めコンビニで並んでいた人数の10倍の人が長い列を成していて、商品を手にする頃には花火が終わってしまうのではないかと心配になった。

 

それでも今ならまだ間に合う、と近くの芝生に席を確保し(無料スペース)、私がその長い蛇の尻尾に並んだ。食べ物の商品ラインナップは焼きそば、たこ焼き、焼き鳥、唐揚げとど定番、出来合いの物だ。

もうこの時点で何もかもが目的と違うが、しょうがない。

並んで数十分、後20人位で私が購入する番という絶妙のタイミングで「すみませーん!焼きそばがもう無くなってしまいましたー!」という店員のおばちゃんの大声でのアナウンスが入る。

……何だと?

頭の中では焼きそば2つ、唐揚げ1つという購入プランが最後尾に並んでいた時からあったというのに。無くなったものは仕方ないので、泣く泣くたこ焼き2つ、唐揚げ1つというプランに切り替える。私の前後に並んでいた人達もその無慈悲なアナウンスにザワザワしている。後ろには私が最初に並んだ時より人が増えているが、そのアナウンスは後ろまで届いてはいない。焼きそばを求め健気に並んでいる人達はどうするんだろう。

やがて次が私の番、という所まで来た。前に並んでいた女性2人組が「今何が残ってます?」と聞くと「たこ焼きはあと1個しかない」とまさかの返事に対し「あ、じゃあとりあえずたこ焼きと……」とうんうんそうでしょうね、という返し。これで選択肢からたこ焼きも消えた。目の前で消えた。

結局1時間近く並んで候補にも無かった焼き鳥と唐揚げという最低の成果しか挙げられなかった。

 

買い物を終え確保した芝生のスペースに着いたその瞬間にカウントダウンが始まり、花火が始まった。特に考えもせずに「何となく空いてたから」で陣取った所だったが思いの外かなり良いポジションで、ヌメっとした空気を貫く大型花火の重低音に耳を傾け、空を彩る複数の花火にしばし見惚れていた。

途中、自分達の場所から左奥前方、木々の上の方から花火の余煙にしては少しグレーが濃い煙がモクモク上がっているのが見えた。

遠かったし花火会場だしそんな気に留めなかったが、数分後に後ろからサイレンの音と赤く点滅する車両が現れ、会場が一瞬不穏な空気になる。

だが目の前ではまだガンガン花火が打ち上げられている。

そう、同時開催の『戸田橋花火大会』が頑張っていたのだ。

私達が陣取った場所からは『いたばし花火大会』のナイアガラの滝は全く見えない位置にいたのだが、どうやらそのナイアガラで事故が起こったらしく(これは後で知った)、その後すぐに大会自体を中止いたしますという放送が流れた。

その場にいた人達は何が起こったのか釈然としない中、ゾロゾロと帰路につき始める。大半はいや、まだあるはずだとその場を動かない。

しばらく中断していて「さすがにもう終わったかな?」と思ったその時、再びピューッと尾を引いた閃光が放たれ、胸にダイレクトに響いてくる振動と共に中空に光が散った。

幸いにも戸田側の花火師が頑張ってくれて、素晴らしいフィナーレを見る事ができたのだ。帰ろうとしていた人達も足を止め、一斉に上空を見上げる。

自然に拍手が起こっていた。

 

帰りは最寄駅から更に一駅分歩いた。

考えることは皆同じ。狭い歩道をゾロゾロと行進が続く。毎年近隣の人は自宅から花火が見えるという付加価値と引き換えに、この混雑を許容しているのだろうか。

 

有名な隅田川や同時に開催されていた江戸川の花火大火に比べたら混雑はまだマシな方だったに違いない。無料でありながら芝にゆっくり陣取ってストレスフリーで花火を堪能できた。当初の目的とは全然違う物になってしまったが、総じて素晴らしい花火大会だった。

実際のところ私達は、『いたばし花火大会』を満喫できたのだろうか。『戸田橋花火大会』を満喫していたのだろうか。同時開催と謳っているが、どの花火がどちらなのかはよく分からない。

でもそんな事はどうでもいい。

火事の方は怪我人がいなかったとの事で何より。