【実体験】幽霊に馬鹿にされた話5
魂の会話
Kが見たという『黒い影』。わざわざ私に話をした理由がKにはあった。
電話で霊能者が霊視をした際5体いると言われた『霊』に関して、
「その中で、ヤバい奴いますか」
というKの質問に対して、
「うん、なんか黒い影みたいなものが視える。それだけは余り良くないね」
と答えたというのだ(!)。
もちろんKは先に黒い影を見たという話はしてないし、そんなの、適当に『黒い影』なんて言えばそれっぽく聞こえるだろうという気持ちもわかる。
ただその時の私は、素直に起きている現実をすんなり受け止めた。
では何故、霊感なんて感じた事の無い私の家に5体も『霊』が居着いてしまったのか。
霊能者曰く、我々現世の人間には肉体とは別に『魂』があり、魂同士で時折『魂の会話』たるものをしているらしい。目には見えないがジョジョのスタンドの様なもので、例えば我々人間が誰かと会話をしている最中に、道を歩いている最中に、公園でベンチに座ってる最中に、魂同士もそこで会話をしているというのだ。
Kは元々霊感が強い。私が外に出たり誰かと会ったりする度に魂の会話が行われ、
「この人(私)についていけば、力(霊感)のある人の所に連れて行ってくれる。一緒に行こう」
というやりとりをしているというのだ(!)。
……え?わたしが??
Kは我が家に1ヶ月ほど滞在していた。魂同士の会話では、Kの拠点、つまり力を持ったKの住まいが即ち私の住んでいるアパートという認識で、そこにいけば救ってくれるかも知れない人がいるからおいで〜という事らしい。
私が外に出る度に救いを求め彷徨える『魂』達が、Kを目当てに私に憑いてきて溜まった霊体、その数5。
そんな馬鹿な。
俄には信じがたい話ではあるが、しかし一応辻褄は合ってる気がした。
テープに録音された声も、私が連れてきた誰かが余りの馬鹿さに思わず声を出さずにいられなかったのだろう。もしくはKへのアピールなのか……。
出て行くK
兎にも角にも、今現在『霊』だか『魂』だかがこの部屋に5体いる事、その内1体が余り良くない事はわかった。
じゃあこの後はどうすればいいのか。具体的に悪影響はないのか。
Kが霊能者に聞いた所、単純にKがその場を離れれば問題無いとの事だった。つまり居候を解消し、その家がKの拠点で無くなれば、私にこれ以上無駄な『何か』は憑いてこない。そして今いる5体も、Kに憑いて行く事になると。
Kはその日すぐさま身支度をし、「なんか悪ぃ、とりあえず出てくわ。また連絡する」と午前中の間に実家に引き返して行った。
「OKOK、わかった、なんか気をつけて」と私もひとまずはすんなり送り出す。例の録音されたテープは持っていても特に大丈夫だという事だったので、そのまま我が家に残っていた。
1人残された私は、色々あった一瞬の出来事を振り返りながら、
果たして、本当にそのままKに憑いて行ったのだろうか。
とふと思った。私の目には見えないが、この空間に『何か』がまだ彷徨っているのではないか?5体の『何か』が同時に上から見降ろしているのではないか?
想像して、急に怖くなってきた。部屋の隅々まで隈なく見渡すが、おかしな所は何もない。目を閉じて耳を澄ましてみても、変な声は聞こえたりしない。
心霊、お化けの類は元々苦手ではない方だ。むしろ好んで楽しめるコンテンツだった。信じているかいないかのスタンスは、『自分では1度も体験した事がないからわからない』。
けど先程までのあの時間で起きた出来事は、妙に生々しかった。テープに録音された声という証拠もある。
繰り返しになるが、明らかに「バーカ」とはっきり聞こえるし、タイミングもある意味バッチリ。そして恐らく人間で再現しようとしても出来ない不可解な入り方をしていた。
その日はたまたま深夜のアルバイトは休みだった。即ち、そんな日の夜に1人で過ごすことになったのだ。別に家に誰かを呼ぶとか、誰かの家に行くとか、いくつか方法はあったと思う。だがその時頭の中を駆け巡っていた考えはどうしてか、
『夜寝る時に電気をつけたままにするか、いつも通り真っ暗にして寝るか』
という事だった。