アンコール・ワット遺跡群を自転車で周回した話【お題に参加】
今週のお題「行きたい国・行った国」
こんにちは。
行った国、という事でかなり前(10数年前)になるが、カンボジアの『アンコール・ワット遺跡』がどうしてもこの目で見たくて、1人旅をした事がある。
タイにも行きたかったので、まずはバンコクに行き、そこからバスで遺跡があるカンボジアのシェムリアップまで向かう計画を何となく立てた。日程は2週間ほど。
何となく、というのは当時バックパッカーに憧れていて中国(この時は2人)、インド、ネパールと1人旅をほんのちょっとした経験からその場その場の成り行きに任せた方が面白いと思ったからだ。
※以下でも少し触れてます
格安バスでバンコク⇨シェムリアップ
どこかで改めて当時のタイのバンコクの話も触れたいと思うが、とにかく居心地が良くてカンボジアに向かう前に思ったより長居してしまった。
基本的に宿は日本人が集まる所謂『日本人宿』のドミトリーに泊まることが多い。
『地球の歩き方』には載ってない生の情報を聞けるし、色々な人の話が聞けて参考になるし、安いし。とにかく私にとっては良い事が多い。
何日かバンコクで過ごした後、現地の旅行会社で無事シェムリアップに向かうバスのチケットが取れた。格安バスのチケットだ。
出発当日集合場所に行くと、欧米人に混ざって各々単独で来ている日本人とも会った。バスは超満員。補助席に至るまで満席だ。詰め込む詰め込む。幸い席には座れたのだが、身体の大きい欧米人だとただでさえ小さなシート、私が成り行きで座った席は1番後ろで5人が限界の所を7人くらいで押し込まれていた気がする。
最初はお互い気を使っていたが、その内隣の欧米人の腕が自分の肩に常に乗っている状態になり、私の肘も彼の肩に乗っている様な状態になった。
もうどうでも良かった。
そのままボッコボコの土の道を途中休憩を挟みつつ延々10時間程か。日本の道はどんなに田舎でも基本アスファルトで整備されている事の凄さを身を持って感じた。
バスの中に若いタイ人もしくはカンボジア人と思われる青年が添乗員として乗車していて、頑張って覚えたのであろう英語で明るく挨拶や何かしらの説明をし、話を終える度に車内から拍手が沸き起こった。詰め込まれた硬い椅子で全身が痛くなったが、その瞬間は車内全体がほっっこりしていた。
自転車という選択
私の(少ない)経験上、得に東南アジアなどの場合格安の移動手段を選んだ場合は大概同乗者と同じ辛い経験を通して仲間意識がほんのり生まれる。
目的が一緒という事もあり、バスに同乗していた日本人と行動を共にする様になった。出発前や休憩中にチラホラ話していた内の1人、K君だ。
何となくここが良いかな、と思っていた日本人宿に向かい、チェックイン。仲良くなった日本人がもう1人いたのだが、彼は元々別の宿を予約していて、後日一緒に食事をする約束をして別れた。
ドミトリーを選択し部屋に行く。30畳程の部屋にベッドが10個くらいある。空いている所に案内され、荷物を降ろす。宿泊客は全員日本人。すでに何泊かしている人もいるのだろう、各々でコミュニティーができている。私は人見知りなので、最初はせいぜい軽く挨拶をする程度だ。
『アンコール・ワット遺跡群』は、遺跡群と言う様に広大な面積に膨大な数の遺跡が点在している。よく写真で紹介されている有名どころはそのほんの一部でしかない。
どう周るかは個人によるが、一般的には車移動かトゥクトゥクというバイクタクシーみたいなものかツアーに参加してバスで周るかが多いと思う。何しろ広大だ。
そこで私とK君は宿で自転車を借りる事ができると聞いていたので、その場のノリで自転車を選択した。『歩き方』の地図を頼りに、よくわからない土地をひたすら遺跡目指してペダルを漕いだ。
遺跡へ
かなりの距離を漕ぎ、まずはお目当ての『アンコール・ワット』、有名どころの1つ『タ・プローム』『アンコール・トム』などを周る。それぞれ中々の距離があったと思う。遺跡も、写真や映像で見るより何倍も良い。
ただその中で特に気に入ったのが、途中で迷い込んだ道の先にあった『門』(正式名称は失念)だった。え?この道であってる?と言いながら辿り着いた場所だった。両サイドが土で盛り上がり木が生えていて森になっており、観光客の姿など全く見かけない。
現地の子供が数人遊んでいる。なんと彼らは盛り上がった土を登り、門の上まで軽々と到達しているではないか。それを見た私とK君は自転車を止め、その門の頂上付近で写真を撮りたいと思った。今思えば罰当たりな事かもしれないが、若気の至りというか。
高さは10メートル程か。まずは私が試みる。K君は下でカメラを構えている。
いざ門の上まで来ると、下で見ていた景色とは180度違う。門の上の中心に行く為には、いつ崩れるかわからない足場を数歩進まなければならない。歩幅は30cmに満たない。もし足を滑らせて落ちたらただでは済まないだろう。ましてや異国の誰もいない様な場所。
「うわ!ちょっと待って!やばいやばい!」
そう叫ぶ私を、K君はケラケラ笑う。見守っていた現地の子供数人もそれを見てキャッキャと笑っている。私は本気で死を覚悟した。こんな事しなければ良かったと心底後悔したが、ここまで来たならと腹を括り、必死に中心まで辿り着き鎮座して目を閉じ合掌してポーズを決めた。
行きと同じく必死の思いで戻り、K君と交代。「またまた大袈裟なー」と笑っていたK君も数秒後には全く同じリアクションをしたのだった。
恐らく自転車で周回していなければ辿り着かなかったであろうその場所。地図に名前は載っていたが、写真などで紹介されている様な所では無かったはずだ。
10年以上も前の事なのに、今も強烈に頭の中に残っている。
気がつけば夜
とにかく広大だった。朝出発したと思うが、何やかんやで辺りは暗くなりそろそろ宿に戻る事になった。一応有名どころは一旦は抑えたが、まだまだ行きたいところは無数にあった。
しかし途中え?これも遺跡?という所も自転車を降りて観光できたし、何より自由に行動できたのが1番良かったと思う。
まだ若かったから楽しめたのであろう。
自転車で周遊という選択肢は少数派なのだろうか。わからない。
けど森に囲まれた遺跡群を辿る道は美しく、日本で言えば軽井沢をサイクリングしている感覚だろうか(未経験だが)。
もしこれから『アンコール・ワット遺跡郡』を観光したいと考えている人には、自転車周遊を自信を持ってオススメできる。未知の体験ができるに違いない。ただし少し体力と気力が必要だが。
宿に戻ると、近くで中々の装備をしている自転車を点検している日本人を見かけた。
話しかけると、
「さっきようやくシェムリアップに着いたんですよ」
と爽やかに言った。どうやら彼は、東南アジアを自転車で周っているらしい。私と同じ様にタイ方面からここシェムリアップに来た様だ。
……なんかその、自転車でアンコール・ワットを周ってやったぜ!という高揚感が一瞬の内に吹き飛んだ。