kumorinekoの雑記

東京在住、とりあえず始めます。

高級鮨屋に初めて行った話

こんにちは。

 

私はどちらかと言うと全くグルメではない。

自分で言うのもアレだが、美味かろうと不味かろうと食事ができる事自体が有難いと思っているので、空腹を感じそれが満たされればそれで良い。

特に信仰しているものはないが、仏僧のドキュメンタリーを観るのが好きなので多少は影響があるかもしれない。

ちなみに高校の頃全国から小僧が集まる大きなお寺が近くにあった関係で、クラスに何人かお坊さんのたまご達がいた。普段はお寺で厳しい修行を行なってる反動か、娑婆(学校)に降り立った彼らは皆悪かった(笑)。

 

ともあれそんな私が2年ほど前、1度でいいから行ってみたかった所謂『回らない寿司屋』もとい、『鮨屋』に足を運ぶことが出来た。

とは言っても鮨だけで客単5万円とかの予約すら取れない、いや、住所や電話番号すら公開されていない紹介でしか辿り着けない超高級鮨ではないが、行ったお店の大将はそんなお店で修行してきた職人だった。

 

そもそも遠出をするつもりで休みを取って準備していた時で、しかしコロナの影響で断念した為に突発的に思いついた高級鮨だった。

しかも家から徒歩15分。最寄駅からはだいぶ離れていて、知らなかったら通り過ぎてしまいそうになる佇まいだ。

存在は何となく知っていたが、いざ1度高級鮨にトライしてみようと当時はまだ彼女だった妻と調べ、緊張しながら電話を掛けてみる。

お恥ずかしい話だが何しろ初めてなのだ。電話の感じによっては断られるかもしれない。だがそう怪訝していたのも杞憂な程すんなり予約が取れ、まずは一安心。確か電話をかけたのは2週間ほど前だったか。女将さんであろう方が電話口だったのだが、淡々としていたので若干の不安は募った。

ネットでそんなに数は多くない情報を頼りにお店を再度調べてみる。とりあえず大将の顔は把握した。

 

そしていざ当日。

果たして我々みたいなもんを受け入れてくれるだろうか、という間抜けな不安のもと15分前に店の前まで来た。予約時間は18時。

あれ?お店が開いていない?

外から覗くと薄ら灯りは見えているが、暖簾が掛かってないし、どう見てもオープンしてる様子が無い。2人して顔を見合わせ、とりあえず定刻まで待ってみる。扉に手を掛けるのは何となく躊躇われた。

ちなみにそのお店は大きめな道路に面しているので、近くの駐車場まで歩き、そこで様子を見る事にした。

すると近くに、明らかに”同志”と思われる3人組を発見。3人も所在無さ気にたむろして何かを待っている。状況や場所から判断して、まず間違いない。

こういう鮨屋は定刻ピッタリじゃないとその入り口を開けてはならないという勝手に作った謎ルールを3人組も感じているのか?それとも慣れっこなのか。我々素人には分からなかった。

 

定刻18時。

もう流石に良いだろうと1分前に再び入り口の前まで来ると、中から着物姿の女将さんが笑顔で「いらっしゃいませ」と迎え入れてくれた。ホッとして後ろを見ると、先程の3人組、そしてどこで待っていたのか若そうなカップルもそれに続いた。

 

店内はカウンターのみ8席。和風を基調とした高級感溢れる佇まいに、緊張感が抜けずにいた。当然真ん中にはあの写真で見た大将が静かに立っていた。奥の席に通され、電話の雰囲気が勘違いだったと思わせる女将さんの優しい人柄に安心しまずは飲み物を注文。全員に飲み物が行き渡って、「ではよろしくお願いします」的な大将の挨拶で初めての高級鮨が始まった。ここはメニューはコースのみ、大将が毎日市場に赴きその日1番良い素材を選んで内容が決まると言う方式だ。

恐らくそこにいた全員緊張していたのであろう、誰1人言葉を発しなかった。

こう、お琴の何かみたいなBGMも一切無い。最初の1品が出るまでシーン。作業する大将を全員が直視する。女将さんもカウンターの端に凛として立ち、大将を見つめている。

 

出来上がると、大将が1人1人順番に出していき、その都度同じ説明をしてくれる。

本当に最初は全員「美味しいね」と言う声も小声だった。何か声を出してはいけない雰囲気がそこにはあった。こう言うと気まずい悪い印象になってしまうが、何というかお互い牽制しあって、独特な緊張感が続いていた。

もちろん出てくる1品料理はどれも美味しい。びっくりするくらい美味しかった。

 

でもそれは最初の10分程だったか。

一見すると明らかに堅物そうな大将はとても気さくで、何がきっかけか忘れたが話し始めるととても話好きだった。3人組の中のおじさんが堰を切ったように話し掛けたりし、女将さんも含めお店全体が良い雰囲気になった。

「予約が取れないような店にしたくない」と大将。だから帰り際の直接予約は全て断り、必ず電話でお願いしているそうだ。わかりましたと言って帰りに扉を出た瞬間に電話を掛け予約をした人がいるそうだが、きっと大将の鉄板ネタだろう。皆笑っていた。

 

「必ずまた来ますね、って言ってくれて大変有難いですけど、大概なかなかそう言って来られない方が多いんですよね」と冗談まじりで言っていたが、本当にそうなってしまった。

お腹も心も満足して「絶対また行こう、半年に1回予約しよう」なんて意気揚々に言っていたのに。

お店はもちろんまだ健在な様なので今年中にまた足を運んでみたい。

色んなお店があるだろうが、少なくとも初めての高級鮨は間違いはなかった。

決してグルメではない私にもその確かな味が脳裏に刻まれた。